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神戸地方裁判所 昭和31年(わ)1103号 判決

被告人 近藤哲男 外二名

主文

被告人近藤哲男を、判示第一、第三、第四及び第五の罪につき懲役一年に、

判示第六、第八の罪につき懲役一年に、

被告人藤田勝美を懲役一年に、

被告人康永範を懲役八月に処する。

ただし本裁判確定の日から、被告人近藤哲男に対し四年間、被告人藤田勝美、同康永範に対し各三年間右各刑の執行を猶予する。

押収にかかる輸出申告書十三通(証第一号の一、第一号の三、第一号の五、第一号の七、第三号乃至第十号、第二十号)の全部並びに輸出申告書十通(証第二号の一、第十一号の一、第十二号の一、第十三号の一、第十四号の一、第十五号の一、第十六号の一、第十七号の一、第十八号の一、第十九号)の各偽造部分を没収する。被告人近藤哲男から、判示第五の関税法違反罪につき、金三十二万三千八百七十四円を判示第八の同法違反罪につき、金五十一万七千百九十一円を追徴する。

訴訟費用中国選弁護人中井一夫に支給した分は被告人近藤哲男の負担とし、証人村上照男、同菅恵に支給した分は被告人康永範の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人康永範は韓国向けの輸出入の業務を営む交和物産公司(後に組織変更して交和物産株式会社となる)に勤務していたもの、被告人近藤哲男は通関ブローカーをしていたもの、被告人藤田勝美は外国為替公認銀行である株式会社大和銀行船場支店に勤務し輸出認証責任者三妙恒雄の補助者として輸出認証の事務等をしていたものであるところ、

第一、被告人近藤哲男、同康永範は共謀の上、

(一)、昭和三十一年二月下旬頃大阪市東区道修町一丁目四番地交和物産公司において、行使の目的をもつてほしいまゝに、六枚の輸出申告書用紙裏面の各「輸出者の宣誓」欄に三王株式会社を表示する英文字をタイプでそれぞれ冒書し、更に所用欄にそれぞれ輸出品目及び数量がナイロンソツクス四百ダースで、その売買建値が八百ドルにして、輸出前受代金の未使用残高が二千百四十九ドル六十七セントである旨等を英文タイプでそれぞれ記入し、順次署名し、恰も三王株式会社がナイロンソツクス四百ダースを標準決済方法によつて輸出するにつき、その銀行認証を申請するかのように記載した同会社の署名ある私文書六通(証第一号の一はその一部である)を偽造し、

(二)、同日右同所において、行使の目的をもつてほしいまゝに、六枚の輸出申告書用紙裏面の各「輸出者の宣誓」欄に三王株式会社を表示する英文字をタイプでそれぞれ冒書し、更に所要欄にそれぞれ輸出品目及び数量が洋傘三百本、ストツキング百ダース、絹製品二百十ヤードで、その売買建値が五百八十五ドル五十セント、輸出前受代金の未使用残高が千三百四十九ドル六十七セントである旨等を英文タイプでそれぞれ記入し、順次署名し、恰も右三王株式会社が洋傘三百本、ストツキング百ダース、絹製品二百四十ヤードを標準決済方法によつて輸出するにつき、その銀行認証を申請するかのように記載した同会社の署名ある私文書六通(証第一号の三はその一部である)を偽造し、

(三)、同日大阪市南区塩町通四丁目四十三番地所在の大和銀行船場支店において同銀行輸出係員藤田勝美に対し、前記第一(一)(二)記載の偽造私文書各六通(証第一号の一、三はその各一通である)を真正に成立したように装い、銀行認証に必要な書類を添えて一括提出して行使し、

第二、被告人康永範は、同年三月三日頃前記交和物産公司において、行使の目的をもつてほしいまゝに、六枚の輸出申告書用紙裏面の各「輸出者の宣誓」欄に三王株式会社を表示する英文字をタイプでそれぞれ冒書し、更に所要欄にそれぞれ輸出品目がキスミーフアンデーシヨンで、その売買建値が二百八十ドル六十セント、輸出前受代金の未使用残高が七百六十四ドル十七セントである旨等を英文タイプでそれぞれ記入し、順次署名し、恰も右三王株式会社がキスミーフアンデーシヨンを標準決済方法によつて輸出するにつき、その銀行認証を申請するかのように記載した同会社の署名ある私文書六通(証第一号の五、第二号の一はその一部である)を偽造し、

第三、被告人近藤哲男は同年同月五日頃、大阪市東区備後町一丁目十番地所在の備一ビル内信和貿易株式会社において、行使の目的をもつてほしいまゝに、六枚の輸出申告書用紙裏面の各「輸出者の宣誓」欄に三王株式会社を表示する英文字をタイプでそれぞれ冒書し、更に所要欄にそれぞれ輸出品目がウーリーナイロン靴下、ゴムセメダイン等で、その売買建値が千三百二十九ドル四十五セント、輸出前受代金の未使用残高が千三百二十九ドル四十五セントである旨等を英文タイプでそれぞれ記入し、順次署名し、恰も三王株式会社がウーリーナイロン靴下及びゴムセメダイン等を標準決済方法によつて輸出するにつき、その銀行認証を申請するかのように記載した同会社の署名ある私文書六通(証第一号の七はその一部である)を偽造し、

第四、被告人近藤哲男、同藤田勝美は共謀の上、同年同月三十一日頃前記大和銀行船場支店において、行使の目的をもつてほしいままに、被告人藤田が、被告人近藤の作成した東邦産業株式会社を申請名義人とする、

(イ)、輸出品目をスプーン、ナイフ、フオーク等とし、その売買建値を四百三十八ドル七十五セントとし、輸出前受代金の未使用残高に関しては二千七百七ドル五十セントである旨の虚偽の記載等がしてある銀行認証申請書六通、

(ロ)、輸出品目を紅茶用コツプ皿とし、その売買建値を三百三十ドルとし、輸出前受代金の未使用残高に関しては二千二百三ドル八十五セントである旨の虚偽の記載等がしてある銀行認証申請書六通、

(ハ)、輸出品目を撞球用道具、チヨーク、算盤等とし、その売買建値を六十四ドル九十五セントとし、輸出前受代金の未使用残高に関しては二千二百六十八ドル八十セントである旨の虚偽の記載等がしてある銀行認証申請書六通、

(ニ)、輸出品目をズボン、ナイロン靴下等とし、その売買建値を六十六ドルとし、輸出前受代金の未使用残高に関しては千八百七十三ドル八十五セントである旨の虚偽の記載等がしてある銀行認証申請書六通、

について、右各六通の内容がいずれも虚偽であることを知りながら、それぞれの銀行証明欄に、かねて保管していた大和銀行船場支店長代理三妙との記載あるゴム印並びに三妙名の個人印をそれぞれ冒捺し、もつて同銀行が前記輸出品目記載の貨物についての代金決済方法を標準決済方法である旨認証したごとき公文書合計二十四通(証第三号、第十六号の一、第五号、第十二号の一、第四号、第十一号の一、第六号、第十三号の一はその一部である)を偽造し、

第五、被告人近藤哲男は韓国船東莱号の事務長ベン受圭より輸出依頼のあつた、(イ)スプーン、ナイフ、フオーク等、(ロ)紅茶用コツプ皿、(ハ)撞球用道具、チヨーク、算盤等、(ニ)ズボン、ナイロン靴下等の、各貨物の輸出代金の決済は標準外決済方法に該当するものであり、本来通商産業大臣の書面による承認がなければ輸出できないものであるのにかかわらず、法定の除外事由がないのに、右承認なくして、情を知らない荒谷武弘を仲介として、大阪市西区富島町一丁目一番地所在の大阪税関富島出張所において、同所係員に対し、

(1)  同年四月二日頃、前記第四(イ)、(ロ)、(ハ)記載の偽造にかかる銀行認証書各六通のうち、各四通を使用して形式上認証ある輸出申告書とした書類合計十二通(証第十六号の一、第十一号の一、第十二号の一はその一部である)を恰も真正に成立したもののように装うて一括して提出行使し、

(2)  同年同月三日頃、前記第四の(二)記載の偽造にかかる銀行認証書のうち、四通を使用して形式上認証ある輸出申告書とした書類四通(証第十三号の一はその一部である)を恰も真正に成立したもののように装うて一括して提出行使し、

もつて右各申告書記載の輸出貨物(別表第一記載の貨物)に対する輸出申告をし、同係員をして右銀行認証が真正に成立したものであるかのように誤信させ、よつて通商産業大臣の書面による承認が欠如のままで、右貨物に対する実際上無効の輸出許可をさせた上、同月四日頃、神戸港に碇泊中の東莱号に、前記依頼にかかる貨物を韓国向けとして船積し、もつて無許可並びに無承認輸出をし、

第六、被告人近藤哲男、同藤田勝美は共謀の上、

(一)、同年四月二十五日頃、前記大和銀行船場支店において、行使の目的をもつてほしいまゝに、被告人藤田が、被告人近藤の作成した東邦産業株式会社を申請名義人とする、

(イ)、輸出品目を印刷機械及び附属品とし、その売買建値を千六十七ドル五十一セントとし、輸出前受代金の未使用残高に関しては千八百七ドル八十五セントである旨の虚偽の記載等がしてある銀行認証申請書六通、

(ロ)、輸出品目を断截庖丁とし、その売買建値を二百七十四ドル九十二セントとし、輸出前受代金の未使用残高に関しては七百四十ドル三十四セントである旨の虚偽の記載等がしてある銀行認証申請書六通、

について、右各六通の内容がいずれも虚偽であることを知りながら、それぞれの銀行証明欄に、かねてから保管していた大和銀行船場支店長代理三妙との記載あるゴム印並びに三妙名の個人印をそれぞれ冒捺し、もつて同銀行が前記輸出品目記載の貨物についての代金決済方法を標準決済方法である旨認証したごとき公文書合計十二通(証第七号、第十四号の一、第八号、第十五号の一はその一部である)を偽造し、

(二)、同年同月三十日頃、前記大和銀行船場支店において、行使の目的をもつてほしいまゝに、被告人藤田が、被告人近藤の作成した東邦産業株式会社を申請名義人とする、輸出品目を線香、化粧品等とし、その売買建値を九十四ドル二十二セントとし、輸出前受代金の未使用残高に関しては四百六十五ドル四十二セントである旨の虚偽の記載等がしてある銀行認証申請書六通について、内容が虚偽であることを知りながら、それぞれの銀行証明欄に、かねてから保管していた大和銀行船場支店長代理三妙との記載あるゴム印並びに三妙名の個人印をそれぞれ冒捺し、もつて同銀行が前記輸出品目記載の貨物についての代金決済方法を標準決済方法である旨認証したごとき公文書六通(証第九号、第十七号の一はその一部である)を偽造し、

(三)、同年六月五日頃、前記大和銀行船場支店において、行使の目的をもつてほしいまゝに、被告人藤田が、被告人近藤の作成した東邦産業株式会社を申請名義人とする、輸出品目を奇応丸、ロートシロンとし、その売買建値を三百七十ドルとし、輸出前受代金の未使用残高に関しては三百七十一ドル二十セントである旨の虚偽の記載等がしてある銀行認証申請書六通について、その内容が虚偽であることを知りながら、それぞれの銀行証明欄に、かねてから保管していた大和銀行船場支店長代理三妙との記載あるゴム印並びに三妙名の個人印をそれぞれ冒捺し、もつて同銀行が前記輸出品目記載の貨物についての代金決済方法を標準決済方法である旨認証したごとき公文書六通(証第十号、第十八号の一はその一部である)を偽造し、

(四)、同日頃、前記大和銀行船場支店において、行使の目的をもつてほしいまゝに、被告人藤田が、被告人近藤の作成したキミ・キヨン・ホーを申請名義人とする、輸出品目を自動車とし、その売買建値を四百ドルとし、輸出前受代金の未使用残高に関しては四千五百ドルである旨の虚偽の記載等がしてある銀行認証申請書六通について、その内容が虚偽であることを知りながら、それぞれの銀行証明欄に、かねてから保管していた大和銀行船場支店長代理三妙との記載あるゴム印並びに三妙名の個人印をそれぞれ冒捺し、もつて同銀行が前記輸出品目記載の貨物についての代金決済方法を標準決済方法である旨認証したごとき公文書六通(証第十九号、第二十号はその一部である)を偽造し、

第七、被告人藤田勝美は、

(一)、同年三月三十一日頃、前記第四記載の偽造にかゝる公文書中、記載内容の異る各一通ずつ合計四通(証第三号乃至第六号)を、

(二)、同年四月二十五日頃、前記第六(一)記載の偽造公文書中、内容の異る各一通ずつ合計二通(証第七号、第八号)を、

(三)、同年同月三十日頃、前記第六(二)記載の偽造公文書中一通(証第九号)を、

(四)、同年六月五日頃前頃前記第六(三)記載の偽造公文書中一通(証第十号)を、

(五)、同日頃、前記第六(四)記載の偽造公文書中一通(証第二十号)を、

それぞれその都度、恰も真正に成立したもののように装うて順次前記大和銀行船場支店に備付けて行使し、

第八、被告人近藤哲男は、韓国船錦生号の姜成彦より輸出依頼のあつた、(イ)印刷機械及び附属品、(ロ)断截庖丁、(ハ)線香、化粧品等の、各貨物の輸出代金の決済は標準外決済方法に該当するものであり、本来通商産業大臣の書面による承認がなければ輸出できないものであるのにかかわらず、法定の除外事由がないのに、右承認なくして、情を知らない荒谷武弘を仲介として、前記大阪税関富島出張所において、同所係員に対し、

(1)、同年四月二十七日頃、前記第六(一)記載の偽造にかかる銀行認証書中、各四通を使用して形式上認証ある輸出申告書とした書類合計八通(証第十四号の一、第十五号の一はその一部である)を一括して提出行使し、

(2)、同年同月三十日頃、前記第六(二)記載の偽造にかかる銀行認証書中、四通を使用して形式上認証ある輸出申告書とした書類四通(証第十七号の一はその一部である)を恰も真正に成立したもののように装うて一括して提出行使し、

もつて右各輸出申告書記載の輸出貨物(別表第二記載の貨物)に対する輸出申告をし、同係員をして右銀行認証が真正に成立したものであるかのように誤信させ、よつて通商産業大臣の書面による承認が欠如のままで、右貨物に対する実際上無効の輸出許可をさせた上、同月三十日頃大阪港に碇泊中の錦生号に、前記依頼にかかる貨物を韓国向けとして船積し、もつて無許可並びに無承認輸出をし、

たものである。

(証拠の標目)(略)

(確定裁判)(略)

(被告人の主張に対する判断)

被告人は、本件輸出については税関係員の許可を受けているものであるから無許可輸出ではないと主張するので考えるに、輸出許可とは一般に禁止されている輸出行為を特定の申告者に対してその禁止を解除し適法に行わせる行政行為であるが、関税法第六十七条によれば、貨物を輸出しようとする者は税関に輸出申告をしてその許可をうけなければならないのであり、同法施行令第五十八条によると、輸出申告には輸出申告書による事を要し、又輸出貿易管理規則第六条によると、輸出貨物がその輸出について外国為替公認銀行の認証を要するもの(輸出貿易管理令第三条)であるときは認証済の輸出申告書を税関に提出しなければならない旨規定されている。ところで銀行の認証を受けるには輸出申告書及び必要書類(貨物の代金決済が標準決済方法によつて行われるときはそれを証するに足る書類、貨物の代金決済が標準外決済方法であつて通商産業大臣の承認をうけた方法によつて行われるときはそれを証するに足る書類)を提出することを要し(外国為替及び外国貿易管理法第四十九条、第六十九条輸出貿易管理令第一条、第三条、同規則第四条)、銀行は当該輸出決済が標準決済方法であるか、標準外決済方法である場合には通商産業大臣の承認又は許可をえた決済方法であるかを確認した上でなければ認証してはならないのである(輸出貿易管理令第三条、同規則四条)。しかして税関に対し右認証済の輸出申告書が提出せられ、検査の結果輸出貨物と申告書に記載されている貨物との同一性が確認され、且つ関税法以外の法令で輸出に関し許可又は承認等を必要とするものについては、その許可、承認等を受けている旨証明された場合にはここに輸出許可が与えられ、これらの証明がされない貨物に対しては税関は輸出許可をしてはならないのである(関税法第七十条)。

以上の諸規定並びにその規定の趣旨から考えると、税関係員のなす輸出許可は輸出貿易管理令第三条の銀行の認証を要する輸出にあつては有効な認証済の輸出申告書又は同令第一条第一項の規定による有効な通商産業大臣の承認書の存在を必要要件とする行政行為であると解するのが相当であるから、右認証又は承認書が偽造その他の理由によつて無効である場合にはその認証又は承認書は何らの効力をも生じないものであり、それらに基いて仮りに形式上輸出許可が与えられたとしても、その輸出許可は必要要件を欠き、重大且つ明白な瑕疵のある行政行為として当然無効であると解すべきである。

しかるに、本件輸出は判示第五及び第八事実中で認定したように、輸出貿易管理令第一条第一項第三号の標準外決済方法による場合であるにもかかわらず、同条の通商産業大臣の承認をえていないのは勿論、支払方法が標準決済方法によつて行われ適法である旨の偽造の銀行認証書を作成し、これを税関に提出して、同係員を欺き輸出許可をえたものであつて、形式上は輸出許可を受けていたとしても、偽造の銀行認証書による輸出許可は重大且つ明白な瑕疵のある行政行為であり、当然無効であるといわねばならないから、被告人近藤哲男の本件貨物輸出行為は税関の許可なくして貨物を輸出したものとして関税法第百十一条第一項に該当することが明らかである。

(法令の適用)

法律に照らすと、被告人近藤哲男の判示所為中、第一の(一)、(二)の各私文書偽造の点は刑法第百五十九条第一項、第六十条に、判示第三の各私文書偽造の点は同法第百五十九条第一項に、判示第一の(三)の各偽造私文書行使の点は同法第百六十一条第一項、第百五十九条第一項、第六十条に、判示第四、第六の各公文書偽造の点は同法第百五十五条第一項、第六十条、外国為替及び外国貿易管理法第六十九条第三項、第一項に、判示第五、第八の各偽造公文書行使の点は同法第百五十八条第一項、第百五十五条第一項に、無承認輸出の点は外国為替及び外国貿易管理法第四十八条第一項、第七十条第二十二号、輸出貿易管理令第一条第一項、標準決済方法に関する規則第三条に、無許可輸出の点は関税法第百十一条第一項に該当するところ、判示第一、第三、第四、第五の罪は前示確定裁判第一の罪と、又判示第六、第八の罪は前示確定裁判第二の罪とそれぞれ刑法第四十五条後段の併合罪の関係にあるから、同法第五十条により更に判示第一、第三、第四、第五の罪並びに判示第六、第八の罪につきそれぞれ処断すべきところ、前者の罪については、判示第一の(一)、(二)の各私文書偽造と判示第一の(三)の同行使、判示第四の(イ)、(ロ)、(ハ)の各公文書偽造(但し各四通分)と判示第五の(1)の同行使、判示第四の(二)の各公文書偽造(但し四通分)と判示第五の(2)の同行使との間にはそれぞれ手段結果の関係があり、且つ判示第一の(三)の偽造私文書の一括行使、判示第五の(1)、(2)の各偽造公文書の各一括行使、並びに無許可輸出と無承認輸出はそれぞれ一個の行為にして数個の罪名にふれる場合であるから、刑法第五十四条第一項前段、後段、第十条によりそれぞれ最も重い偽造私文書行使罪、偽造公文書行使罪、関税法違反罪の刑に従い、これらと判示第三の各私文書偽造罪、判示第四の各公文書偽造罪(但し前記各四通分を除いた各二通分)とは、刑法第四十五条前段の併合罪であるから、関税法違反罪につき懲役刑を選択し、刑法第四十七条、第十条により最も重い偽造公文書行使罪(判示第五の(一))の刑に法定の加重をし、後者の罪については、判示第六の(一)の公文書偽造(但し各四通分)と判示第八の(1)の同行使、判示第六の(二)の公文書偽造(但し四通分)と判示第八の(2)の同行使との間にはそれぞれ手段結果の関係があり、且つ判示第八の(1)、(2)の各偽造公文書の各一括行使、並びに無許可輸出と無承認輸出はそれぞれ一個の行為にして数個の罪名にふれる場合であるから、刑法第五十四条第一項前段、後段、第十条によりそれぞれ最も重い偽造公文書行使罪、関税法違反罪の刑に従い、これと判示第六の(一)、(二)の各公文書偽造罪(但し前記各四通分を除いた各二通分)、判示第六の(三)、(四)の各公文書偽造罪とは刑法第四十五条前段の併合罪であるから、関税法違反罪につき懲役刑を選択し、刑法第四十七条本文、第十条により最も重い偽造公文書行使罪(判示第八の(1))の刑に法定の加重をし、それぞれの刑期の範囲内で被告人近藤哲男を判示第一、第三、第四、第五の罪につき懲役一年に、判示第六、第八の罪につき懲役一年に処する。

被告人藤田勝美の判示所為中、判示第四、第六の各公文書偽造の点は刑法第百五十五条第一項、第六十条、外国為替及び外国貿易管理法第六十九条第一項、輸出貿易管理令第三条に、判示第七の(一)乃至(五)の偽造公文書行使の点は刑法第百五十八条第一項第百五十五条第一項、外国為替及び外国貿易管理法第六十九条第一項、輸出貿易管理令第三条に該当するところ、判示第四の(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)の各公文書偽造(但し各一通分)と判示第七の(一)の各同行使、判示第六の(一)の(イ)、(ロ)の各公文書偽造(但し各一通分)と判示第七の(二)の各同行使、判示第六の(二)の公文書偽造(但し一通分)と判示第七の(三)の同行使、判示第六の(三)の公文書偽造(但し一通分)と判示第七の(四)の同行使、判示第六の(四)の公文書偽造(但し一通分)と判示第七の(五)の同行使とはいずれもそれぞれ手段結果の関係にあるから、刑法第五十四条第一項後段、第十条により、それぞれ重い同行使罪の刑に従い、これらと判示第四の(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)、判示第六の(一)の(イ)、(ロ)、判示第六の(二)乃至(四)の各公文書偽造罪(但しいずれも前示各一通分)を除いた各五通分)とは同法第四十五条前段の併合罪であるから、同法第四十七条本文、第十条により最も重い判示第七の(一)の偽造公文書行使罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人藤田勝美を懲役一年に処する。

被告人康永範の判示所為中、判示第一の(一)、(二)の各私文書偽造の点は刑法第百五十九条第一項、第六十条に、判示第二の各私文書偽造の点は同法第百五十九条第一項に、判示第一の(三)の各偽造私文書行使の点は同法第百六十一条第一項、第百五十九条第一項、第六十条に該当するところ、判示第一の(一)、(二)の各私文書偽造と判示第一の(三)の同行使との間には手段結果の関係があり、且つ判示第一の(三)の偽造私文書の一括行使の点は一個の行為にして数個の罪名にふれる場合であるから、同法第五十四条第一項前段、後段、第十条により最も重い偽造私文書行使罪の刑に従い、これと判示第二の各私文書偽造罪とは同法第四十五条前段の併合罪であるから、同法第四十七条本文、第十条により最も重い偽造私文書行使罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人康永範を懲役八月に処する。

ただし、被告人等三名に対し、諸般の情状にかんがみ刑の執行を猶予するを相当と認め、刑法第二十五条第一項を適用して、本裁判確定の日から、被告人近藤哲男に対しては四年間、被告人藤田勝美、同康永範に対しては各三年間右各刑の執行を猶予する。

押収にかかる輸出申告書中証第一号の一は判示第一の(一)の、証第一号の三は判示第一の(二)の、証第一号の五、証第二号の一の偽造部分は判示第二の、証第一号の七は判示第三の各私文書偽造の犯罪行為より生じたもの、証第三号、第十六号の一の各偽造部分は判示第四の(イ)の、証第四号、第十一号の一の各偽造部分は判示第四の(ハ)の、証第五号、第十二号の一の各偽造部分は判示第四の(ロ)の、証第六号、第十三号の一の各偽造部分は判示第四の(ニ)の、証第七号、第十四号の一の各偽造部分は判示第六の(一)の(イ)の、証第八号、第十五号の一の各偽造部分は判示第六の(一)の(ロ)の、証第九号、第十七号の一の各偽造部分は判示第六の(二)の、証第十号、第十八号の一の各偽造部分は判示第六の(三)の、証第十号、第十九号の各偽造部分は判示第六の(四)の、各公文書偽造の犯罪行為より生じたものであり、以上はいずれも何人の所有をも許さないものであるところ、証第三号乃至第十号、第二十号は各偽造部分を除くその余の部分についてはそれのみでは何等の効用を有しないものであるから、刑法第十九条第一項第三号、第二項により、輸出申告書中証第一号の一、第一号の三、第一号の五、第一号の七、第三号乃至第十号、第二十号の合計十三通全部、並びに証第二号の一、第十一号の一、第十二号の一、第十三号の一、第十四号の一、第十五号の一、第十六号の一、第十七号の一、第十八号の一、第十九号の合計十通の各偽造部分を没収する。

なお、判示第五、第八の各関税法違反罪の犯罪行為を組成した貨物(別表第一、第二記載の貨物)は、すでに外国に輸出せられ、これを没収することができないから、関税法第百十八条第二項により、本件犯行当時の価額に相当する、判示第五の関税法違反罪につき金三十二万三千八百七十四円(別表第一記載の貨物の価額合計)を、判示第八の同法違反罪につき金五十一万七千百九十一円(別表第二記載の貨物の価額合計)を被告人近藤哲男からそれぞれ追徴する。

訴訟費用につき、刑事訴訟法第百八十一条第一項本文を適用し、国選弁護人中井一夫に支給した分は被告人近藤哲男の負担とし、証人村上照男、同菅恵に支給した分は被告人康永範の負担とする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 石丸弘衛 栄枝清一郎 藤原弘道)

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